SIEがBungie(バンジー)を買収!狙いは理解できるけど正直ガッカリ感もある

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SIEがBungieを36億ドル(4,140億円)で買収の合意に至ったと発表しました。

Bungieは今後も独立して運営され、マルチプラットフォームで展開するパブリッシャーとして活動するようです。「パブリッシャー」として活動するとなると、通常のPlayStation Studiosとは扱いが違う。

既にSIEはPS4/PS5/PCのマルチプラットフォーム展開をしていますし、特殊な例では『MLB The Show 22』がPS5/PS4/Xbox One/Xbox Series/Nintendo Switchという全機種マルチです。Bungieのマルチプラットフォーム展開に驚きはない。

既存のゲームは継続で新作は?

焦点としては2025年にリリースされるという新規IP。PS5/PCのマルチプラットフォームは確定的ですが、それ以外も含むかどうか。MSは『Starfield』でPSを外す方針を示していますし、BungieもXboxは含めないマルチプラットフォームになる可能性が高いと思う。

MSに買われた会社がPSを切るとか、SIEに買われた会社がXboxを切るとか、現時点での予想に意味はない。そもそもジム・ライアンは「私たちは常に世代を信じていると言ってきました。わざわざ次世代機を作るのであれば、前世代にはない機能やメリットを盛り込むべきだと考えています。そして、それらの機能を最大限に活用できるようなゲームを作るべきだと考えています。」と言ってPS5独占を強調していたのに、PS4との縦マルチに変更していますから。宣言に絶対的な意味はない。さすがに何度も騙されないよ!

「マルチプラットフォーム」も大雑把な言葉です。公式FAQに「開発中の将来発売するゲーム」がプレイステーション独占になるかどうかが書かれていて独占を否定していますが、新作をXboxに出すと言っているわけではない。「新作」と「現在のゲームの今後のサポート」をちゃんと分けて書いているのが印象的です。「現在のゲームの今後のサポート」はプラットフォームを明記してビシッと言いきっていますが、「新作」はゴニョゴニョしている感じがリアル。

Q:既に発表されている新作タイトルについてはPlayStation独占になるのでしょうか?
A:いいえ。私たちは、私たちが創る世界がゲームをプレイするあらゆる場所に広がっていってほしいと思っています。今後もクリエイティブの独立性を維持し、セルフパブリッシングを続けますし、一つにまとまったBungieコミュニティーを牽引していきます。Q:現在Steam、Xbox、Stadiaでプレイしていますが、今後も私のプラットフォームはサポートされますか?
A:はい。

PS5/Steam/StadiaでもPS独占ではないマルチプラットフォームです。こういう部分を考えず「マルチで出すと言ってるからXboxでも出す」と思い込んでいる人もいるかと思う。ベセスダの買収当初もPSでゲームを出すと思っていた人がいましたが、『Starfield』であっさり否定されました。冷静に考えて「出すわけねーだろ」「PSとXboxはバチバチじゃい!」となるところでもあります。既に存在しているゲームは継続ですが、新作となるとMSはXbox+PC、PSはPS+PCが当たり前になるんじゃないでしょうか。PCだけで十分な市場があるんだから、ファーストはロイヤリティのいらない自社のゲーム機だけに出したほうがいい。買収していきなり独占を強調すると叩かれるから上手に濁すだけで。

私は30%のロイヤリティを支払ってハードけん引効果を失ってまでライバル機種にゲームを出すとは思えない。「CSでは独占」のメリットの方が大きいと思う。ライバル機種からユーザー1人がやって来れば、その1人がゲームを買うたびに金が入ります。ゲーム単品の目先の売上だけで見ればマルチにしたほうが大きいでしょうけど、自社ハードに1人でも多く引き込むほうがトータルの売上は期待できる。コミュニティも強くなる。それがファーストパーティーのやるべきこと。

CSでのマルチがあるとしたら時限独占。だから、さもCSでもマルチも匂わすようなコメントは信用していません。両社とも「〇〇をPSでも出します」「Xboxでも出します」と具体的に言いきらない匂わせ合戦の後、結局はどっちも『Starfield』状態で新作は「CSでは独占」もしくは「1年の時限独占」のオチじゃないかな。

『Starfield』のXbox独占も悪いことはなにもなくて、ユーザーを呼び込める魅力的なファーストパーティーのタイトルをライバル機種に出さないのは当たり前でしかない。直接的なライバルにはなりにくいPCゲームの市場が大きいですから、PS5に出さなくて困ることはない。昔ならPS2やPS4の市場は魅力的だったでしょうけど。今のPS5とXbox Seriesの市場に絶対的な魅力はなくて、ファーストパーティーならなおさらライバルのプラットフォームはスルーできる。
『MLB The Show 22』のようなMLBの意向などがあると例外になるけど、そういう例は多くないでしょう。

なんにせよ買収が合意したばかりで確定していない事が多く、状況を見て臨機応変に対応するでしょう。

持っているIPは『Destiny』

Twitterの反応を見ると「HaloのBungie」として認知されているBungie。でも『Halo』はMSが所有するIPです。
Bungieは2010年にアクティビジョンと契約を結んで『Destiny』『Destiny 2』を開発しました。この契約は2019年1月で終了しており、『Destiny』のIPはBungieが所有しています。

  • 『Halo』はBungieじゃなくてMSのIP
  • 『Destiny』はアクティビジョンじゃなくてBungieのIP

元Bungieの幹部で作曲家のマーティ・オドネルは、アクティビジョンとの契約を「初めから酷かった」と強く批判していました。「MSの傘下に戻りそうだった」とも言っていましたが、SIEの傘下になりましたね。

古い作品では『Marathon』『Myth』『Oni』がありますが、復活する可能性は低いでしょうし、IPもどこが持っているのか不明ですから、Bungieの生きているIPは『Destiny』のみと見て良いかと思います。

ソニーは映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が絶好調で、2月18日には『アンチャーテッド』が公開。海外では人気のある『Destiny』の映画化も予想されています。
Bungieには2021年に外部取締役としてパラマウント・ピクチャーズやMTVなどの映画・テレビ会社を傘下に持つバイアコムCBSのパメラ・カウフマン氏が加わっており、『Destiny』の映画化は噂されていた。ただ「キャラが立っている」という作品ではないので、映画がヒットするかは疑問でもある。カプコンで言えば、『バイオハザード』はヒットするけど『モンスターハンター』はヒットしないという。キャラ立ちだけが原因ではないですが。

『Destiny』は世界設定の作り込みがしっかりしていますし、これを舞台にして映画を撮りたいという発想はわかる。海外では超有名IPですし。0から世界設定を作って新規IPで映画を撮るのは大変でしょうしね。

日本では弱い

『Destiny』『Destiny 2』の初週販売数は、

  • Destiny – 91,277本(PS4) + 49,503本(PS3)
  • Destiny 2 – 50,263本(PS4)

日本ではSIEがパブリッシャーとなり、それなりに宣伝できていた『Destiny』ですが、『2』でガクッと販売数を落としました。
『Destiny 2』は2019年10月2日に無料化されましたが、その時もあまり話題にはなりませんでした。

今回の買収も日本での反応はイマイチ。
バンジー OR Bungie lang:ja | Twitter
日本での急激なプレイステーション離れを感じる中、この買収では盛り上がらない。

FPS強化

SIEは超人気ジャンルであるFPSの開発力が弱かったので、その穴を埋めるという点では良い選択です。

「Haloキラー(笑)」と言われた『KILLZONE(キルゾーン)』はクソゲーではなかったけど、『Halo』の足元にも及ばない結果で相手にならず。開発元のGuerrilla Games(ゲリラゲームズ)は『Horizon』が大当たりして、もう『KILLZONE』は作らないでしょう。

さらにベセスダとアクティビジョンブリザードをMSに奪われて、プレイステーションのFPSはスカスカになるところでした。Bungieを確保した意味は大きいと思う。

ゲハ界隈ではBungieを誤解している人も多いでしょう。鳴り物入りだった『Destiny』がロンチ時点ではイマイチの評価だったので、そこで「Bungieは独立してダメになった」という印象を持って、そこからアップデートされていない人が多いかと思う。ネガティブなニュースの方がウケて、その後の復調は注目されない。
最初の大型DLCで高い評価を得て、Xbox Oneのその年のシューターではメタスコアが最高評価でした。
『Destiny』のロンチ時点でつまずいただけで、それ以降は安定して高い評価を得ている。

『Destiny 2』は同時接続数122万人を記録した事もあり、2022年2月1日時点でもSteamで同時接続数9位でした。海外ではトップクラスの人気を持つFPSという結果になっています。強いコミュニティも持っている。日本のゲハ界隈では、この人気は認知されていないかもしれない。

『Destiny』『Destiny 2』のゲームパッドでの操作性は素晴らしく、敵AIやゲームバランスも職人的なクオリティがあります。数あるFPSの中で、これほど高いクオリティを出せるメーカーは多くない。銃撃戦の触り心地の良さは極上。
『Destiny』は、オンライン・マルチプレイヤー・アクションロールプレイングゲーム・FPSゲームという難しいジャンルである事が不評を生みやすい原因になっている。ユーザースコアが低くなるのも仕方なし。でもこのジャンルで、この評価と人気は凄いことです。
シングルプレイのキャンペーンを軸にしたゲームならば減点要素がガクッと減り、さらに素晴らしい作品を作れるでしょう。

割高に感じる36億ドル(4,140億円)

『マインクラフト』のMojangが25億ドル、多数のIPを持つベセスダ(ZeniMax Media)が75億ドル。これらと比べて『Destiny』のBungieが36億ドルは高く感じ、お買い物上手って感じはない。MSが買収攻勢を仕掛ける中、FPSが弱いSIEは割高でも買う必要性はあったという感じ。

発表のタイミングも悪かったですね。買収自体は半年前から話が進んでいたので、アクティビジョンブリザードを買収されたからカウンターってわけではまったくない。
ただ、ソニーが36億ドル(4,140億円)も使った大型の買収発表なのに、MSによるアクティビジョンブリザードの687億ドル(約7.8兆円)の買収の直後だとショボく感じる。昨今の買収の応酬状態でのプレイステーションの劣勢感は拭えない。

2025年までに新規IPを投入

2021年2月にBungieは将来に向けた計画を発表をしており、「2025年までに少なくとも1つの新規IPを市場に投入する」と言っています。

2022年秋までにアメリカワシントン州ベルビューにある本社の拡張を完了し、拡張前の2.5倍近くにもなる2万平米の新本社が完成します。
オランダのアムステルダムに初の海外支社も設立予定。オランダ人のハーマン・ハルストとの繋がりもあるのかもしれない。

現時点では割高に感じる買収額だが、会社の規模が大きくなることを含めての36億ドルでもある。3つくらいのIPを保有して、それらがヒットすれば36億ドルの価値を感じられるかもしれないどころか、めっちゃ上手い買い物になる可能性がある。

跳ねる可能性

SIEはFPSが弱点という中で、CODのアクティビジョンブリザード、BFのEA、VALORANTのライオットゲームズ(テンセント傘下)などは、桁違いの金額ですから現実的に買収はできません。トップレベルのFPSを開発できる会社の中で、Bungieの36億ドル(4,140億円)は唯一手が届く会社だったともいえる。「今」しか見えてない我々は「Destinyに4,140億円はアホだろ」と思うけど、これを育てて36億ドルを大幅に超える価値のある会社にできれば、ジム・ライアン天晴となる。『Destiny 2』の基本部分の出来の良さと、基本無料ゲームとしての成功を見れば、やり方次第で可能性はあるとは思う。
ジム・ライアンは嫌いだけど、完成している物を買うだけじゃなくて、大きく育てる見込みを持って買収するスタイルなら好きです。Bungie本社が2.5倍に拡張され、オランダに支社もできるという事で、成長への仕込みは着々と進んでいる。

基本無料ゲームで大成功を狙う

『Destiny 2』は基本無料ゲームになり、人気を維持しています。そのノウハウをSIEのIPで生かす事も考えているようです。『フォートナイト』や『APEX』は日本で超人気のあるタイトルで、日本の小学生で人気のゲームの1位が『マイクラ』でも『ポケモン』でも『マリオ』でもなく『フォートナイト』の時代。

サブスクよりもこれからの時代の主流になる可能性を秘めているというか、『フォートナイト』や『APEX』の成功を見ると、既に主流かもしれない。Xbox Gamepassとは違う「基本無料ゲーム」でSIEが成功できればBungie買収は大成功と言える。簡単な挑戦ではなく、雲を掴むような話にすら思えるが。SIEがフォワードワークスでスマホアプリでの成功を夢見たような…。

まぁジム・ライアンだけが買収先と方針を決めているわけではないけど、とりあえずトップなので上手くやった時は評価される。

理解できるが正直ガッカリ感もある

個人的にはオンライン専用のマルチプレイヤーFPSに強い興味はないので、今のところ『Destiny』しか持っていないBungieの買収は嬉しくない。
『Call of Duty』をMSに奪われたかわりに、オフラインのキャンペーンモードもあるSIE版『Halo』みたいな新作が出れば嬉しい。今度こそ本物の「Haloキラー」になるかもしれない。
なんにしても『Halo』も日本では人気がないため、『Destiny』を含めて日本での影響力は小さいBungie。

SIEが苦手とするFPSの強化としては良い判断だと理解できますし、『Destiny』の映画化を含めているのも予想できるし、基本無料ゲームでSIEが成功すれば買収は大成功でしょう。…それでも個人的には36億ドル(4,140億円)も使っての買収がBungieというのはガッカリした気持ちもある。本来ならどこを買おうと買収にガッカリする必要はないはずですし、Bungieの新規IPは楽しみですが、ソニーの次なる買収先の期待度やMSの勢いとの比較による落差でガッカリ感が生まれているのかと思う。それに何より『Destiny 2』を愛するプレイヤーではないですからね。
JAPAN Studioの解散からの、洋ゲーらしい洋ゲーに染まっていくSIEの流れは変わらない。

「映画化」もキーワード

次は跳ねる発表が欲しいところ。

『アンチャーテッド』『ゴースト・オブ・ツシマ』は映画化、『ラスト・オブ・アス』は実写ドラマ化、『スパイダーマン』は映画からゲームへ。ソニーが大型の買収をする時は「映画化(実写ドラマ化)」もキーワードになるでしょう。ヒットしたゲームを映画にして、さらに強いIPにする狙いが明確なので、ゲーム+映画で生きるIPなら高くても買いそう。

GamesIndustry.bizのChristopher Dringがジム・ライアンに取材して、
「And Jim Ryan told me ‘We should expect more’ when it comes to further PlayStation acquisitions (そして、ジム・ライアンは、プレイステーションのさらなる買収について、『もっと期待すべき』と話していました。)」
と言われたとのこと。まだまだ買収ネタはありそう。SIEもMSもね。日本の大手を取ったところが日本を制するかもしれない。

コメント

  1. nimabi より:

    Thank you very much for sharing, I learned a lot from your article. Very cool. Thanks. nimabi

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